2018年02月14日

融通無碍

ウェリントンはcafeの街としても知られている。Cafeと言っても現在はコーヒーが中心である。フラットホワイト、カフェラテを中心として様々なメニューが開発されてそれが更に広がりをみせている。

 

NZは元々英国文化の国であり紅茶が当然であったが20年位前にスターバックスが進出して、それまで普通のお店ではお湯タンクに入って飲み放題1ドルだったコーヒーがスターバックスで一杯3ドルで売り出され、それまでNZになかった美味しさで一気にNZのコーヒー文化が始まった。

 

そして20年経った現在では本家のスターバックスを凌駕する勢いで地元コーヒーショップが展開されている。美味しいコーヒーを作るバリスターと言う職種も人気で多くの若者が自分独自のコーヒーを作りお客に振る舞い、15ドルでも売れている。

 

5ドルあればビールが3本買えるぞなんて思っているのは長い間コーヒーを飲んでない人間の発想でしかなく多くの人々はコーヒー文化を楽しんでいる。

 

そしてNZのコーヒー文化はどうもコーヒー文化の本家とも言える米国コーヒー文化を、味と雰囲気と言う点ではもしかしたら上回っているのではと言う事がある。

 

数年前にニューヨークから来たレストランコンサルタントと話す機会があったのだが、その彼がいみじくもNZのコーヒー文化を評価してて「こりゃ面白いぞ」と言ってた事にある。

 

実はこれは料理にも言える。今のニュージーランドのレストランで出される料理は旨いのだ。変な表現かもしれないが、NZでは30年前まで食べ物が極度に不味かった。

 

これはNZの元々の文化に原因がある。1800年代に移民としてやって来た英国人は集団移民が中心で、英国の中産階級、つまり真面目なキリスト教徒がその教えと共にやって来た。

 

彼らは労働を神との契約と考えよく働き禁欲主義者として美味しいものを作ることを望まなかった。

 

美味しいものを追求するのは欲望であるから駄目って事だが、じゃあお隣のフランスは不信心者って事で何度も戦争仕掛けたのか?

 

まあいい、要するに栄養さえあればそれでよい、芋と肉を焼いて塩コショウだけで食べればよい、それこそ神との契約だ、そんな考え方だった。

 

だから僕が1970年代後半に初めてニュージーランドを訪れてあちこちの街を回り素敵なホテルに泊まったのだが、どこのホテルのレストランも食べ物には閉口したものだ。

 

ステーキは焼け過ぎで僕は一人で「こりゃ草履ステーキだな、履けるくらいだぞ」と思ってた。料理の素材は良いのに敢えて料理をすることで不味く作り上げる、ある意味芸術的であった。

 

それが1980年代にNZがアジアに対して開国するようになりまず香港人がやって来た。彼らの作る中華料理はびっくりするほど美味しくてキーウィはその中華鍋を「魔法の鍋=Magic Wok」と呼んでいたほどだ。

 

1990年代には日本料理が紹介されるようになり健康的で美味しいってんで寿司や天ぷら、そして決定的な「テリヤキソース」が導入されてNZの食文化が大きく変化した。

 

そして21世紀に入ると多くの外国人がやって来てそれぞれの郷土料理を持ち込んできてNZの食文化が完全に変化した。

 

この時に運が良かったと言うかコーヒーと同様でNZには元々NZ料理やNZの飲み物と言う「原型」がなかったので、どのような食べ物も飲み物も融通無碍に受け入れることが出来たのだ。

 

例えば日本には日本料理があるし中國には中華料理という原型がある。だから米国式のマックやKFCが来ても米国の味ではなくそれぞれの国の味に微妙に変わってしまう。

 

ところがNZではその原型がない。だから他国の料理をそのまま受け入れることが出来たし、更にそれを脳天気なキーウィが独創性を持って組み合わせるからステーキハウスの前菜に味噌味のカルパッチョが出てきたりする。

 

要するに味噌の使い方はキーウィにとっては融通無碍、日本人のように「味噌はこう使う!」なんて原型がないのだ。

 

NZでは料理学校やホスピタリティ学校が次々と出来てそこで働く講師は世界を渡り歩いたプロであり彼らがキーウィの空っぽな脳みそに次々と新しい技を教えていく。

 

それは勿論コーヒーも同様でバリスタ学校で学ぶ若者はコーヒー作りに独自の創造性を生みだしてファンを作り文化を昇華させている。

 

良くも悪くも原型を持たず禁欲的な文化だったNZ21世紀の北半球の美味しいものが一気に流れ込んできた。良くも悪くも世界の中で最も遅れた田舎の国だったから北半球の出来上がり進んだ文化をそのまま受け入れることができた。

 

この国の食文化がこれからどのように発展するにせよ、一度覚えた美味しい料理は今更19世紀の禁欲的文化に戻ることはない。

 

南島の古い街を回りながら40年前の事を思い出しつつ現在の素晴らしく美味しい料理を楽しむ。NZは良くも悪くも幸運な国である。



tom_eastwind at 12:51│Comments(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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