2018年04月29日

今の日本の旅行業界に未来はない。

2019年の就職人気企業ランキングにJTBが日経ビジネスでは10位、ネットでは8位になっている。他にもKNT35位とかもあったりだが、現在の日本の旅行業に未来はない。

 

現時点ではインターネットを使えない人々相手に数年は食えるだろうが、既に個人旅行はセルフブッキングでホテルも飛行機も現地での移動手段も手配出来るから大手の旅行会社から個人客が離れていくのは当然である。

 

団体旅行も1980年代のような「団体慰安旅行」がなくなりその結果として熱海の旅館群も1990年代に次々と倒産した。団体で移動する習慣が次第になくなっていった。

 

インバウンドは実態としては中國からのツアーは中国人同士の手配ですべて完結しており日本の旅行会社にお金は落ちない。

 

つまり外国から観光客が増えて日本から海外に行く観光客が増えて国内旅行が盛んになっても、それは既存の旅行会社の手から擦り落ちているのだ。

 

唯一未来があるのがMICEであるが、現在の日本の旅行業界でMICEを出来る人間は限られており、第一MICEが出来るなら独立開業するほうがやってる担当者からすれば余程自由度が高まり仕事がやりやすくなる。

 

僕は1980年代に自分がMICEをやってたので分かるが、MICEは広告代理店が得意とする分野であるから広告代理店が本気で参入すれば代理店の下請けとして仕事をするしかない。

 

例えば今年ニュージーランドで行われたワールド・マスターズゲームでは日本からもチャーター便で多くの人々がやって来たが、仕切ったのは電通である。彼らの下請けでオークランドのインバウンドエージェントが動いた。

 

では何故旅行業界は世の中の変化を見て自分たちも変化しなかったか。

 

大きな原因としては2つ。

 

1つ目は老害である。1980年代にジャンボで香港チャーターを飛ばした夢が忘れられず何時も売上と総客数だけ観て利益率を考えず航空会社からの接待に喜び、インターネット時代になったのに全く対応出来ず外国から来た予約システムや日本国内の「旅の窓口」に後れを取った。

 

2つ目はやはり1980年代からの悪い習慣であるが、お客様の要望を聴かず自分の売りたいものだけを売ってきたことである。まるでたちの悪い銀行や保険の営業マンと同じである。

 

旅行業が提案するものは旅という非日常で絵や本でしか知らない場所に連れていき、事実確認をする満足感と旅の途中に起こる色んなハプニングが楽しいのだ。

 

銀行や保険ならカネも返ってくる可能性もあるが旅行では払ったお金は絶対に返ってこないし、むしろ旅先でお土産や食事の支払いで旅行費用と同じくらい確実に使う。

 

それでも人々は旅をした、その好奇心を満足させる為に。ならば旅行業者としては顧客ご家族一人一人の旅の歴史を把握して、この家族は去年はあそこに行ったから今度はこちらをお勧めしよう、お子さんが来年高校受験だから長旅は駄目だなとか、プロとしてその家族に提案した。

 

そして団体旅行を組むならその団体の存在目的は何なのか?彼らが忌諱するものは何で彼らの興味があるものは何なのかを考えて「先生、次の旅行は、こちらはどうですか?」と提案した。

 

つまり顧客と営業担当が旅行情報を共有して営業担当はプロとして誠実に顧客に提案していた。当時はインターネットもなく旅先の旅行情報は旅行会社にしかなかったからその情報格差を利用してビジネスが成立したのだ。

 

ところが1980年代に旅行業が急成長すると同時に航空会社がジャンボジェットを導入して座席を大量に旅行会社に販売した。当時は航空会社が自前で航空券を売る仕組みを持っておらず、旅行会社に依頼するしかなかったのだ。

 

そこで旅行会社の各支店は自分の担当航空会社と交渉して香港34日チャーターを組み300人募集をコミットする。

 

一旦コミットすると支店全員が顧客に売りに行く。そうなると本当はシンガポールを勧めるべき顧客に「今は香港っすよ!ジャンボチャーター!」全然顧客の顔を見ずに自分の支店ノルマだけ考えた。

 

更に支店長クラスになると自分とこの会社と送客契約をしている近辺の旅館やホテルの社長に声をかけて「おい、旅行に行こうぜ!」とやる。相手もプロだから「悪いけど今は丁度決算やってて休めないんだ、悪いけどその旅行で支店長んとこはいくら利益が出るの?その分払うから勘弁してよ」となる。

 

そしてチャーター担当者も他社と価格競争になるから香港3448千円!とかやる。これは業界では赤字発進と呼ばれており原価計算上では一人2万円くらいの赤字が出る。

 

だから香港に到着してバスに乗るとまずは日本語ガイドが両替を全員にする。続いて現地でのオプショナルツアー、例えば水上レストランの夕食とかを売り込み、最初にネイザン通りを観せたらすぐにお土産屋に連れていき30分以上缶詰めにする。

 

夕食後はお決まりのピークに向かい、九龍側の景色を背景に写真を撮るのだが、カメラマンは地元ヤクザである。彼らがニコニコしながらポラロイドを使って帰りのバスの中で即売する。

 

もうこうなると完全なぼったくりツアーであり、顧客は旅行会社のボッタクリに嫌気が差して「もう旅行会社なんて使わない」と思ってた。丁度その頃にインターネットが発達を始めて、今までは旅行会社が独占していた旅行情報を個人が得ることが出来るようになった。

 

何だ、だったら自分で予約するよ、そんな時代に個人がホテルや旅館を予約出来る「旅の窓口」が出来て、ビジネスマンを含む多くの人々がセルフブッキングを始めた。

 

それでも老害達はネットを無視して「へ、あんなの旅行会社じゃねー!」と言ってるうちにネット旅行会社に客を取られてしまった。

 

これは丁度1980年代にHISが安売り航空券会社として成長した時に当時のJTB幹部が「あんなの旅行会社じゃねー」と言ってたのと全く同じ状況である。

 

つまり消費者である顧客の旅の気持ちを読み取らず自分たちだけの情報格差が永遠に続くと思って顧客に寄り添わなかったからだ。

 

現時点でも既存大手旅行会社の売上は毎年減少している。これから先もネットでは客を取られ団体は減少しインバウンドも利益を取ることは出来ない。

 

MICEは利益を取れるが今まで古い旅行会社はMICEの知識を社内に蓄積しなかった。

 

これで勝ち目があるわけない。

 

本当に企業ってのは規模ではない。どんなに大きくても変化出来なければ退場である。生き残るのは企業規模に関係なく、時代に合わせて変化出来るかどうかである。

 

その意味で現在の大手旅行会社があいつら老害を抱えて変化出来るか?間に合うか?到底そうは思えない。だからこれから就職を目指すのに大手旅行会社を選ぶのはお勧めではない。かと言って中小旅行会社は更にきつい。なので既存の旅行業界をその知名度で判断するのは止めた方がいいって話である。



tom_eastwind at 21:34│Comments(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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