2005年08月15日
シリウスの道 藤原伊織 文芸春秋社
シリウスの道 藤原伊織 文芸春秋社
7月の日本出張時に、偶然紀伊国屋で見かけた本だ。普段は荷物になるので、かさばる単行本は買わない事にしているが、今回は手が伸びた。
「テロリストのパラソル」、「白髭の冒険」と、一見全くジャンルの違う作品を、何の衒いもなくさらりと書きわける。それでいてどちらにも、底辺にあるのはイオリズムだ。なかなかやってくれる作者である。だから単行本の重さだけで購買拒否というのでは、筋違いと言うものだろう。
買った。そのまま、出来るだけ重さを感じないようにタクシーを拾って目黒まで戻った。
「シリウスの道」。作品は、これからゆっくり堪能しよう。
週末に2日で読了。結局、買ってよかった。いろんな評価があるだろうが、1800円の単行本を東京で買ってオークランドまで持って帰り、それでも「よかった」と思わせる作者は、僕には少ない。
本の内容はトラックバックに任せるとして、彼には独特の速度がある。どんなシーンでも、セピア色の古いビデオを回しているような、そんなゆっくりさがある。その分、登場人物の人格の書き込みが時には弱いと思ったりするが、そこまで書かなくても読み取れという、作者からの意図であろうか。
そう考えると、これはハードボイルドではないかと思った。案の定、本の帯に「ハードボイルド」という評価が付いている。
普通ハードボイルドと言えば、霧の夜に目深に帽子をかぶって銃を撃ちまくるイメージがあるが、この本には銃は全く出てこないし、血も(殆ど)流れない。よだれが流れるだけだ(読んだら分る)。
藤原伊織に好感を抱いている僕がいる。大好き、ではない。好感だ。作中に出てくるホットドッグの話。どこかで読んだ記憶がある。翌朝、他の本を引っ張り出して見つけた。思わず「ほー、やられた」と感心した。この技法を最初に導入したのは北方謙三だと思うが、久々に手の込んだ、職人の本を読ませてもらった。
ところで新宿ゴールデン街を思い出させる書き方だが、藤原は昔、ゴールデン街で飲んでいたのだろうか?
勝手な評価で6点満点の4です。作品として完成度が高く、今の時代どこでも通用するレベル。但し10年後に読んだ場合、同様の作品との違い=独創性が通じるか?