2005年08月17日
「国家の罠」 佐藤優 新潮社
国策捜査と言う言葉はこの本で初めて聞いたが、その意味するものは、文字通り国家による策略としての捜査だった。犯罪捜査ではないから、最初から法の正義や公平を期待するほうがおかしい。国家が個人に向って、「お国のことを考えてお縄につけ。それで皆が救われるのだから」という趣旨だ。
そういう視点から、外務相国際情報局分析一課に勤務し、鈴木宗男や森元首相らとロシア外交実務を取り仕切っていた佐藤優本人が書き下ろした「内幕もの」である。
いつものように、内容は国家の罠に任せるとして、感想のみ。
作者は最初から法の公平や平等などみじんも期待していないから、その視点は非常に冷静であり、利己や無意味な理想を超越して書かれているので、すがすがしい。
日本人は元々、法律を何よりも上位にある正義として捉えているが、その考え方が大きな間違いであるという事を、実にあっさりと語っている。法律は、その時期にその地域で作った住民の合意契約であり、時期や地域が変われば、いとも簡単に昨日の常識が今日の非常識になる。
ましてや、法律は国家が作っている以上、国家運営に問題があれば、国家が自分の生き残りの為に法律を無視して行動する事など、ごく当然と言わざるを得ない。そのような時期にそのような場所に居た事が、作者の不幸であろう。
しかし不幸という言葉を使うのが妥当かどうか、分らないほど、文章の内容は、すがすがしい。これでやっと肩の荷が降りたよ、今度はもっと気楽な事をしたいね、そんな気持ちが文章から感じ取れる作品だ。
勝手評価では3だが、法律や理屈を無意味に信じている人に読んで欲しい優秀作品だ。それに、日記風なので読みやすい。鈴木宗男に対する評価も変わるかもしれない。世の中って矛盾しているけど、僕らはそんな社会で生きていくしかないのだって。
ちなみに、私は鈴木宗男に対しても、森元総理に対する評価も変りませんでした。