2005年08月28日
「最悪」 奥田英朗 講談社文庫
1999年の作品。全く繋がりのない3人の人生を別々に描きながら、偶然に交差する劇場型小説。そこに至る一人一人の生活感と、蓋然性がしっかり描き込まれている。
毎日の仕事に退屈さを感じる、銀行で働く24歳の女性、第三次下請けの町工場で毎日自分でねじを作る48歳の中年社長、崩壊した家庭を離れ、依る術を持たない20歳のチンピラ。
彼らがバブル崩壊後の日本を背景に、必死に生きようとして、でも、なかなか自分の思うように人生が動かず、あえぎながら毎日を過ごすうちに、まるで運命の糸に引き寄せられるように、ある一点で交差する。
日曜の午後、一気に読了した。648ページの厚さだったが、しっかりとした読後感がある。でも、何か暗いものが残った。何だろうこの気持ちって考えてみて分った。結局全員が「流されている」だけなのだ。
運命が川の流れのように一方向に流れるものなら、それを逆らって上流に行こうとするのは無理だろう。時間は戻らないから。でも、流れの中の真中を選ぶのか、右端を選ぶのかと言った選択は、自分で出来る筈だ。その努力がないままに、ただいたずらに周囲に合わせて流された結果の話だから、暗い。
そう、暗いのだ。明るいタッチで書かれていても、結局暗い。みんな、弱すぎるのだ。もうちょっと、人間を明るく扱って欲しかったな。
3点。