2007年08月16日
エリオットタワー
オークランドに住んでいる人ならほぼ誰もが知っている、逆バンジーがあるとこの駐車場スペース。更地でず〜っと放置されてて、ウイルソンが駐車場として利用してた場所がある。
あそこに、正式名称が何になるのかまだ分からないが、約3年後を目処に六十数階建てのビルが建つ事になった。
デベロッパーは韓国人投資家グループで、現在は日照権とかの近隣交渉も大体終了し、青写真が出来上がった段階だ。
この建物が出来上がれば、スカイタワーの、丁度レストラン部分と同じくらいの高さになる、超のっぽ近代ビルが出来上がる。隣にあるフィリップフォックスタワーが、午後になると完全に影に隠れてしまう高さだ。
というところまでは、地元の新聞でも見ていた。ほ〜、随分でっかい計画だね〜って他人事だった。
2ヶ月ほど前から、いつも一緒に仕事している弁護士事務所から連絡があり、「おい、DaeJuの連中を紹介するから、時間を作ってくれ」と言われてたのだが、こちらも日本出張や国内出張などが重なり、やっと今日、時間が取れた。
DaeJuと言われても誰の事かよく分からず、まあいいや、当日会って何の話か聞いてみよう程度の軽い気持ちで、昨日会ってみた。
会う予定の11時30分になると、電話が一本かかってきた。DaeJuのマネージャーからだ。「今弁護士事務所なので、10分後にそっちに行くよ」との事。(正確に直訳すれば、Within 5 Minutes と言ったのだが、NZでは10分後という意味になる、大体の場合)。
丁度10分後に現れた3人組の彼らは、小柄で薄い髪の毛をオールバックにまとめて、いかにもすっきりした叩き上げの親父って感じのオーナーと、いかにも彼の右腕って感じのきりっとしたスーツ姿の韓国人青年と、おっとりお兄ちゃんって感じの、弁護士。
青年は俳優並みの色男で、全身シックなブランドで固めた20代後半か30歳前半の好青年。流暢な英語を操り、NZに場慣れしているのは感じる。ただ気持ちよいのは、白人的なオーバーアクションがないって点だ。生まれは韓国なのだろう、礼儀をきちんとわきまえている。
早速彼らと一緒に車に乗り込むが、これがレクサスLS。やっぱレクサス。これって、韓国人と中国人に人気あるんだよね。
車で5分程度のショールームに連れていってもらい、そこで最初は現在建築中の14階建てアパート(これはかなりアジア向け、学生に貸せる)の話を聞かされる。物件は新築だし、その割に値段も、同じサイズのメトロポリスアパートと比較しても、手頃だ。
特に、玄関に備え付けの下駄箱があったりするのがうれしい。靴を脱がないキーウィの習慣で作られた家は、作り付けの下駄箱がないのが多い。
キッチンには吊り下げ式の小型テレビがあり、これが玄関のドアベルとリンクしているので、ピンポンとなったら表の映像が見えるようになってる。
アパート入り口のセキュリティにもかなり拘っており、「何だか随分アジアっぽい作りですね」と聞いたら、何とこの人たち、アパートを建築する為にかなり市場調査を行っており、メトロポリスやヘリテージなど高級アパートに住むアジア人学生に、徹底的に住み心地に関するアンケートを行ったそうだ。
そこで彼らが見つけたのが、靴箱がないとか入り口のセキュリティの問題。
それにキッチンシンクが深くて広い。冷蔵庫がすぐ横にあるので、動線が短く、ドアを開けて食材を出して、すぐに包丁を入れて調理にかかれる作りだ。
狭い場所ながらうまく作ってて、使いやすいキッチンに仕上がっている。キッチンセットは、韓国のものをそのまま持ってきたそうだ。韓国料理の準備に合わせたサイズなので、キーウィ向けよりも広い。
当家のキッチンは、そう考えると使いにくい。冷蔵庫がシンクの反対側にあるし、俎板を置く場所も狭く、鍋に作った材料をちょいの間置く場所もない。
ショールームのベッドルームは狭いが、ガラス張りのウォークインクローゼットにして姿見不要にしたり、張り出しデッキの床は滑らないようにすり石を使っている。
近くの比較物件であるメトロポリスやヘリテージと価格差も殆どなく、そうなると、部屋設備のレベルで、間違いなくこの物件の方が上だなと感じる。
おいおい、これは買いだなと思ってたところに、「実は」と言って、新しい高層ビル、「エリオットタワー」の話が出た。
「この物件は今設計図段階で、シティカウンシルとの交渉をやっている最中なんだけど、大体GOサインが出たので、そろそろ本格的に販売にかかりたいんだ。そこで、日本人市場への売込みを、おたくでやってみませんか?」という提案が来た。
物件は3つのカテゴリーに分かれ、下層階にショップ、中層階がオフィス、上層階をアパートメントにする予定だ。
確かに、スカイタワー並みの360度の展望が確保出来れば、最高のアパートメントになるだろうな。上層階の物件となると、200〜300万ドルくらいはするだろう。たぶんここ10年で一番大きなプロジェクトになるのではないか。
実際に今、オークランドシティ内での物件はかなり開発が進み、まとめて使える大きな土地は、殆ど残っていない。だから、彼ら投資家が言うように、これが最後の大投資かもしれない。
通常はこのような大型物件は、NZの大手不動産業者であるベイリーズやB&Tあたりが仕切るのだが、韓国人のオーナーの孫さんは、「こんな物件は世界を相手に売らないといけない。地元の不動産業者じゃ無理だよ」とばっさり。
だから彼としては、国別にエージェントを決めて販売をしていこうという考えのようだ。
韓国市場は彼らが自分で出来る。中国市場はStephenが香港中国人なので、そのルートからいける。ただ、日本人投資家、てか、日本人市場は彼らとしてもどう対応してよいか、分からない。
やはり、その国出身の人間に任せておかないと、契約にあまり理解力がない日本人が、契約した後で「そんなもんしらん、どうなっとるんじゃ〜!」と喧嘩になる。
そういう思慮もあったのだろう、彼らが弁護士事務所に紹介をお願いしたところ、当社に白羽の矢の一本が立ったという感じだ。
彼らのイメージとしては、日本がどれだけ実態として地に落ちようと、やはりアジアの星としてみているのが、その話しぶりからよく感じる。日本人に売れる、それだけでかなりのイメージ上昇に繋がるようだ。
それにしても、彼らは現在すでに1軒を建設、全て分譲済みで、現在建設中の物件も、ほぼ売り切れている。その勢いで、大きなビルをエリオットストリートに作るというだが、構想偉大なり。
昨日は他にもフランチャイズ契約の話が持ち込まれたが、これは古くから知っているオークランド在住の在日韓国人の方だ。その時彼に「最近、韓国の投資家や若い人たちがパワフルですよ〜」と話をした。
すると彼はしみじみと、「僕たちの時代はね、例え東大を卒業しても、在日というだけで、どこにも就職できなかったんですよ、だから、若いうちから独立して商売を興すしかなかったんですね。でも、最近はそんな差別もすっかり減ってしまい、日本に住む韓国の若者は、ずいぶん日本化が進んでますよ。でも、ニュージーランドに来た韓国人ががんばっているのは、うれしいですね〜」と、目を輝かせながら話してくれたのが印象的だ。
戦後の日本で、問題意識のないまま成長してきた日本人を横目に見ながら、同じ時代を同じ場所で、でも少し違った視点で眺めてきた人たち。
歴史的に、迫害を受けた民族は強くなる。ユダヤ人、中国人、それぞれに数千年前から民族として苦労をしている。
翻って、世間の苦労を何も知らずに乳母に日傘で育った日本人の若者は、食うものには困らない状態で生きる目的を失い、奇妙奇天烈な服装を個性と思い込み、少ない脳みそをゆとり教育と思い、自分探しと言いながら毎日を漠然と、何の努力もせずに過ごす。結局飽食の時代なのか、神様が手抜き人間に与えた罰なのか。
本気で自分探しなら良いが、結局手抜きの言い訳に終わっていないか。
叩き上げのオールバックのおやっさん、海外で一旗上げようって韓国人の若者たち。メシが食えない苦労を知っている在日のひとびと。
昨日は韓国パワーを感じた日だった。
振り返って今日街を歩いてみると、目的もなしにタバコを咥えて、薄汚い格好をして、それでビルの道端に座り込んでいる日本人の若者を見て、この格差、どうやって解消出来るのだろうと、思わず考え込んでしまった。
無気力を着飾ってビルの道端に座り込んでる奴らの目の前に、5秒で爆発する手榴弾でも置いてやろうかと思った、15の夜。