2010年06月12日
巨大投資銀行
「巨大投資銀行」
1985年3月、日本がまだイケイケだった頃日本の銀行や働き甲斐に疑問を持った優秀な銀行員が外資のニューヨーク支店に転職、そこから日本の銀行では想像も出来ないような世界の金融ビジネスに飛び込んでいく話である。
転職した時期がまさにバブルの真っ最中からバブルが崩壊して世界が引っくり返るまでであり、そのすべてを現場目線で描いており、1989年の株価がまさに4万円にもう少しで届こうとしたその時の日本中の歓喜の叫びから翌年になって一気に株価が下降、そして不動産向け貸し出しの総量規制が発表されてついにバブルが崩壊するまでの話が実に面白い。
いやー、それにしても面白いなこの本。ぼくはその時代を日本で生きてたし、ニュージーランドに渡った後も一体あの時代って何だったんだろうって考える事も多くて色んな本を読んだ。
けどここまで金融の分野から“あの時代”を描いているのは珍しいし、何より読ませる読み物になっているのが良い。
シドニーからオークランドへの飛行機の中で下巻を読了。
それにしても“あの頃”の話を書き始めればきりがない。本当に日本と言う国を襲った大嵐であり多くの人々がそれに巻き込まれてたくさんの事件が起こった。
あの頃、誰もあんな大企業が倒産するなんて思いもしなかっただろうな。
あの頃、誰もが日経平均は4万円を越すだろうと思ってただろうな。
あの頃、誰もが東京の不動産は永遠にどんどん上がると思ってただろうな。
けれどそんな誰もが描いていた夢はバブルの崩壊と共にすべてがガラスのように砕け散ってぼろぼろになって地上に叩きつけられた。そしてそれから始まった失われた時代。
株価が右肩下がりに下がりまくって一時期は7千円台まで落ちたり日本中の不動産価格が下がりまくり、日本人の頭の中には株は下がるもの不動産は下がるものと言う神話が刷り込まれた。
ぼくはニュージーランドの不動産の見通しについては基本的に「買い」だと案内する。ただしそこには調整も必要だ。土地付きの一軒家ならロケーションの良いところを選べれば長期投資としてはお勧めですと話している。
しかし多くの日本人は土地の価格が上がるという事が信じられないようで、「おいおい、不動産は買ったら下がるものだよ、何を言ってるの君〜」みたいな負の勢いである。
けどさ、1980年代までの日本は間違いなく右肩上がりで土地は値上がりしたんだよね。その時は誰も彼も「土地は一生値段の上がるものだ、何で価格が下がるなんていうんだ、オマエはおかしい」と言う風潮であった。そして今、誰もが「土地や建物は買ったら下がるんだよ、何を値上がりなんて言ってるんだ」と普通に言う。
要するにどちらにしても自分の意見じゃないって事でしょ。自分で考えたわけじゃなくて誰かの言ったことをそのまま自分の意見と思い込んで大声で話しているだけでしょ。
なんで皆さんそんな風に日本社会のちっちゃな常識に囚われて偉そうにしゃべるくせに、自分の話していることが正しいかどうかの検証をしようとしないのだろうか。全く不思議。
この本では1980年代から世界中で起こった様々な経済事件を背景に話が進む。例えばジャンク債の帝王ミルケン、裁定取引で金融界に全く新しいビジネスモデルを持ち込んだLTCMのメリウエザーなど実在の人物の実名が出てきたり、実名は出せないまでも起こった事件をテーマにした話など、どれもあの時代を現場で生きてきた人間にしか分からない、非常に濃い内容になっている。
シドニー最後の晩にあるお客様と食事をする機会があったが、彼はまさに東京の都銀でバブル時代を経験した人物であり、「ああそうだよ、当時の銀行の仕事なんてカネを貸しつけまくるのが仕事だったし、銀座のバーでビジネスの話を普通にしてたよな」などと当時の思い出を語ってくれた。
この本は巨大投資銀行に飛び込み、ニューヨークやロンドンなどの“外”から日本を見る視点で書かれている。
だからいかに日本人や日本の銀行がレベルが低いか、天下の大手銀行でも外から見れば赤子同然かをある場面で描いている。
主人公が久しぶりに東京出張で2600億円のホテルチェーン買収に関する取引をまとめようとしてハイヤーに乗りかけたとき、偶然ラーメン屋から出てきた元の同期が歯をしーしー言わせながら「よう、久しぶり」と声をかける。
「今何やってんの?M&A?へー、かっこいいね、立派なスーツなんか着ちゃって、しかも黒塗りのハイヤーでお仕事かよ。おれなんか虎ノ門支店の次長だってのに、自転車だぜ」
男は劣等感と優越感がないまぜの眼をしていた。劣等感は安いスーツで自転車で駆けずり回ってる自分に、優越感は社会のコースを踏み外して外資に行った主人公に対して。
この場面がまさに今の日本を現している。一流銀行の虎ノ門支店の次長のやってる事が自転車で客先を回ってお金を集めるだけなのに、同じ年の主人公は顧客に緻密なビジネスプランをプロフェッショナルとして提供してその代価として高いスーツやハイヤーを使っている。
日本の銀行が結局金集めしか出来ずに運用は国債などの低利回り商品しか販売する能力がないのに対して、外資は徹底的に理論武装をしてそのような日本の銀行からカネを集めて世界中で大きな投資をしていく。
これは銀行に限らず殆どすべての産業でも同じ事がいえるのではないだろうか?朝一番から会社に行って戻るのは終電、土日もなく働き詰めで年休も取れない、それなのに住んでるのはちっちゃなアパート(日本ではマンションと呼ばれているが世界基準で言えばあれはアパートだ)。
そうやって作り上げた最高性能のテレビやオーディオは米国に住む人々がプールの付いた自宅の居間で残業もせずに家に帰って家族とゆっくりと楽しむ為に使われ、日本製の高級車は日曜の家族のドライブで使われ、結局一番きつい目をしているのは日本人で、その日本人をうまく利用して楽しい生活を送っているのが米国人だ。
ところが日本に住む日本人は日本にいるだけが幸せだと思い込み海外に出るとか外資で働く人々を軽蔑の眼で見る。どっちが幸せかをお金だけで語ることは出来ないが、少なくとも日本人の方が状況をきちんと認識していないのは事実である。
ぼくが海外に出たのとこの主人公が海外に出た時期が非常に近いこともあり、彼の心情がよく分かる。
誰の助けもなく一人で海外で生きていくことの不安や、少しずつ自分に力が付いてきて回りも認めるようになって友達も出来て生活が少しづつ安定していく時の安心感。
そして外国から日本を見るようになって初めて日本の問題が次々と見えるようになる。それに連れて日本人に対して「何でもっと目を開いて自分の頭で考えないんだ、もっと頑張れ!」と言いたくなる気持ち。
いかに外国、特に英米のビジネスが凄いかを肌で感じながらそういう英米人に手玉に取られる日本人を見るに連れて感じる“あ〜あ、またかよ”と言う諦念。
いずれにせよ日本で現在40代の人々は是非とも読むべき一冊であろう。どうやって日本人がいつも騙されるか、何が日本人の問題か、そういうものを外から見せてくれる優秀な一冊である。
巨大投資銀行(上) (角川文庫)
著者:黒木 亮
販売元:角川グループパブリッシング
発売日:2008-10-25
おすすめ度:
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巨大投資銀行(下) (角川文庫)
著者:黒木 亮
販売元:角川グループパブリッシング
発売日:2008-10-25
おすすめ度:
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1985年3月、日本がまだイケイケだった頃日本の銀行や働き甲斐に疑問を持った優秀な銀行員が外資のニューヨーク支店に転職、そこから日本の銀行では想像も出来ないような世界の金融ビジネスに飛び込んでいく話である。
転職した時期がまさにバブルの真っ最中からバブルが崩壊して世界が引っくり返るまでであり、そのすべてを現場目線で描いており、1989年の株価がまさに4万円にもう少しで届こうとしたその時の日本中の歓喜の叫びから翌年になって一気に株価が下降、そして不動産向け貸し出しの総量規制が発表されてついにバブルが崩壊するまでの話が実に面白い。
いやー、それにしても面白いなこの本。ぼくはその時代を日本で生きてたし、ニュージーランドに渡った後も一体あの時代って何だったんだろうって考える事も多くて色んな本を読んだ。
けどここまで金融の分野から“あの時代”を描いているのは珍しいし、何より読ませる読み物になっているのが良い。
シドニーからオークランドへの飛行機の中で下巻を読了。
それにしても“あの頃”の話を書き始めればきりがない。本当に日本と言う国を襲った大嵐であり多くの人々がそれに巻き込まれてたくさんの事件が起こった。
あの頃、誰もあんな大企業が倒産するなんて思いもしなかっただろうな。
あの頃、誰もが日経平均は4万円を越すだろうと思ってただろうな。
あの頃、誰もが東京の不動産は永遠にどんどん上がると思ってただろうな。
けれどそんな誰もが描いていた夢はバブルの崩壊と共にすべてがガラスのように砕け散ってぼろぼろになって地上に叩きつけられた。そしてそれから始まった失われた時代。
株価が右肩下がりに下がりまくって一時期は7千円台まで落ちたり日本中の不動産価格が下がりまくり、日本人の頭の中には株は下がるもの不動産は下がるものと言う神話が刷り込まれた。
ぼくはニュージーランドの不動産の見通しについては基本的に「買い」だと案内する。ただしそこには調整も必要だ。土地付きの一軒家ならロケーションの良いところを選べれば長期投資としてはお勧めですと話している。
しかし多くの日本人は土地の価格が上がるという事が信じられないようで、「おいおい、不動産は買ったら下がるものだよ、何を言ってるの君〜」みたいな負の勢いである。
けどさ、1980年代までの日本は間違いなく右肩上がりで土地は値上がりしたんだよね。その時は誰も彼も「土地は一生値段の上がるものだ、何で価格が下がるなんていうんだ、オマエはおかしい」と言う風潮であった。そして今、誰もが「土地や建物は買ったら下がるんだよ、何を値上がりなんて言ってるんだ」と普通に言う。
要するにどちらにしても自分の意見じゃないって事でしょ。自分で考えたわけじゃなくて誰かの言ったことをそのまま自分の意見と思い込んで大声で話しているだけでしょ。
なんで皆さんそんな風に日本社会のちっちゃな常識に囚われて偉そうにしゃべるくせに、自分の話していることが正しいかどうかの検証をしようとしないのだろうか。全く不思議。
この本では1980年代から世界中で起こった様々な経済事件を背景に話が進む。例えばジャンク債の帝王ミルケン、裁定取引で金融界に全く新しいビジネスモデルを持ち込んだLTCMのメリウエザーなど実在の人物の実名が出てきたり、実名は出せないまでも起こった事件をテーマにした話など、どれもあの時代を現場で生きてきた人間にしか分からない、非常に濃い内容になっている。
シドニー最後の晩にあるお客様と食事をする機会があったが、彼はまさに東京の都銀でバブル時代を経験した人物であり、「ああそうだよ、当時の銀行の仕事なんてカネを貸しつけまくるのが仕事だったし、銀座のバーでビジネスの話を普通にしてたよな」などと当時の思い出を語ってくれた。
この本は巨大投資銀行に飛び込み、ニューヨークやロンドンなどの“外”から日本を見る視点で書かれている。
だからいかに日本人や日本の銀行がレベルが低いか、天下の大手銀行でも外から見れば赤子同然かをある場面で描いている。
主人公が久しぶりに東京出張で2600億円のホテルチェーン買収に関する取引をまとめようとしてハイヤーに乗りかけたとき、偶然ラーメン屋から出てきた元の同期が歯をしーしー言わせながら「よう、久しぶり」と声をかける。
「今何やってんの?M&A?へー、かっこいいね、立派なスーツなんか着ちゃって、しかも黒塗りのハイヤーでお仕事かよ。おれなんか虎ノ門支店の次長だってのに、自転車だぜ」
男は劣等感と優越感がないまぜの眼をしていた。劣等感は安いスーツで自転車で駆けずり回ってる自分に、優越感は社会のコースを踏み外して外資に行った主人公に対して。
この場面がまさに今の日本を現している。一流銀行の虎ノ門支店の次長のやってる事が自転車で客先を回ってお金を集めるだけなのに、同じ年の主人公は顧客に緻密なビジネスプランをプロフェッショナルとして提供してその代価として高いスーツやハイヤーを使っている。
日本の銀行が結局金集めしか出来ずに運用は国債などの低利回り商品しか販売する能力がないのに対して、外資は徹底的に理論武装をしてそのような日本の銀行からカネを集めて世界中で大きな投資をしていく。
これは銀行に限らず殆どすべての産業でも同じ事がいえるのではないだろうか?朝一番から会社に行って戻るのは終電、土日もなく働き詰めで年休も取れない、それなのに住んでるのはちっちゃなアパート(日本ではマンションと呼ばれているが世界基準で言えばあれはアパートだ)。
そうやって作り上げた最高性能のテレビやオーディオは米国に住む人々がプールの付いた自宅の居間で残業もせずに家に帰って家族とゆっくりと楽しむ為に使われ、日本製の高級車は日曜の家族のドライブで使われ、結局一番きつい目をしているのは日本人で、その日本人をうまく利用して楽しい生活を送っているのが米国人だ。
ところが日本に住む日本人は日本にいるだけが幸せだと思い込み海外に出るとか外資で働く人々を軽蔑の眼で見る。どっちが幸せかをお金だけで語ることは出来ないが、少なくとも日本人の方が状況をきちんと認識していないのは事実である。
ぼくが海外に出たのとこの主人公が海外に出た時期が非常に近いこともあり、彼の心情がよく分かる。
誰の助けもなく一人で海外で生きていくことの不安や、少しずつ自分に力が付いてきて回りも認めるようになって友達も出来て生活が少しづつ安定していく時の安心感。
そして外国から日本を見るようになって初めて日本の問題が次々と見えるようになる。それに連れて日本人に対して「何でもっと目を開いて自分の頭で考えないんだ、もっと頑張れ!」と言いたくなる気持ち。
いかに外国、特に英米のビジネスが凄いかを肌で感じながらそういう英米人に手玉に取られる日本人を見るに連れて感じる“あ〜あ、またかよ”と言う諦念。
いずれにせよ日本で現在40代の人々は是非とも読むべき一冊であろう。どうやって日本人がいつも騙されるか、何が日本人の問題か、そういうものを外から見せてくれる優秀な一冊である。
巨大投資銀行(上) (角川文庫)
著者:黒木 亮
販売元:角川グループパブリッシング
発売日:2008-10-25
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巨大投資銀行(下) (角川文庫)
著者:黒木 亮
販売元:角川グループパブリッシング
発売日:2008-10-25
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