2011年06月06日

移民法改正

今日はニュージーランドのビザについてです、興味がない方は無視してください。

週末にオークランドの専門学校業界で移民法改正予定の骨子が発表された。今まで認められていた専門学校卒業後のオープンワークパーミット取得が出来なくなったり家族ビザの扱いが大幅に変わる予定との移民局からの通達があったからだ。
 

実施は7月末からだがこれから細部について移民局と弁護士と政府とで詰めていくことになるのだろう。


ただこのニュース、移民局のルール変更なんてのは別に珍しいことではない。移民局のルール変更なんて梅雨時の雨、降られて文句を言ってたらきりがないくらいに変更される。


ただまあ遡って適用と言う事はないので現在コースに参加している人は良いのだがこれから参加する人には大変な問題である。


実は以前もっと大きな変更がありその時はも〜っともっと大変な騒ぎだったがその時のコースは中国人が中心で日本人社会では殆ど話題にならなかっただけなので(内容は長くなるので割愛するが)ぼくにとっては今回のも、ああそう来ましたかと言う感じ。


移民局の移民受け入れ政策と言うのは水道の蛇口と同じで、水槽にたくさん水が溜まれば蛇口は閉めるし水が不足すれば蛇口を開く。


水はあるのだがそこに栄養分がなければ起業家ビザ部門を緩和して現地でビジネスを起こす人を優先させて雇用を発生させる。移民局からすれば起業家ビザ部門で受け入れをすればそれだけ地元の雇用に貢献したことになるのでこのビザは比較的取りやすい。


水はあるのだがそこに浄化装置付けたりとかインフラが必要になれば投資家ビザ部門を緩和して海外から資金を呼び込み、その金で橋を作ったり道路を作ったりする。


そういう意味で一番蛇口がきついのが技能移民である。技能移民は地元民の就職機会を奪うわけであり人口増加と言う錦の御旗と先住民優先と言う選挙対策のはざまで常にHOTCOLDがくるくると回るわけだ。(HOTCOLDって蛇口は今の日本では見ることないですよね)


今回の蛇口の背景は増えすぎたサービス産業労働者、とでも言えばよいだろうか。もともとは専門学校を卒業すれば労働ビザが一定期間発給されるなんて仕組みはなく、移住したければ大学に行け、くらいだった。


ところが2000年頃から留学ビジネスがニュージーランドの産業別売り上げでも上位に出てきてそれを支えるように英語学校が作られたが、英語を学ぶだけだと他国(豪州、カナダ、英国)などに比べて魅力がない。いくら物価が安いからって言っても中国人のお金持ちからすればそんなのどーでも良い、他人に威張れる学校となれば英国となってしまう。


そこで移民政策と教育ビジネスの成長を掛け合わせて、同時に今ニュージーランドで不足している業種を考えていくとその最大公約数として出て来たのが「専門学校で技術を学びワークビザ取得、永住権につなげる」と言うコースだった。


クライストチャーチで亡くなった英語学校の校長のことも書いたが彼がやってたのもまさにこれで、彼は看護婦養成学校に力を入れ多くのフィリピン移民を移住させることに成功した。


他の学校もそれを見て「おれたちも続け!」とばかりに様々なコースが発表されたがその中に例えばバリスター、パティセリーなどがある。


何でこんなコースが?と日本人からすれば不思議だろうが、実はニュージーランドは英国圏内で言えば一番賃金が安い国である。そしてNZ国籍があれば豪州で仕事が出来る。その為大学を卒業して数年現場で働いて実務能力を身に付けた人々(医者、看護婦、金融etc)は次々と賃金5割増しの豪州に移住してしまうのだ。(ついでに言えばNZの賃金が1だとするとシドニーの賃金は1.5、アジアで働けば2、米国は3、英国は4くらいだ)


30代の優秀な現場技術者不足はレストランやカフェにも影響を与え、少し腕の良いシェフやバリスターは皆シドニーに行くからその不足分を埋めるために外国から移住を希望する人々に「こんなコースはどうでっか?」とコースを作ったのだ。


しかしこのコースは最初にも書いたように景気や失業率に影響されやすい職種で真っ先に蛇口の影響が出る。コースを開始して2年程度経過して移民局が見直しを行い、

「どうよ、アジア人のバリスター増えて美味しいコーヒー飲めるようになったね」

「そうね、彼らアジア人の若者は英語力もあって会話も楽しめるしいいわよね」

「おいおい、そういうけどオークランドのカフェスタッフが黒頭ばかりってのは抵抗ないか?」

「そうねー、かなり数も増えたし今時カフェで黒頭見ないことはないしね」

「そっか、じゃあそろそろ数の調整をして様子を見てみるかな」

「そうね、2年もやったしそろそろかな、それにしてもだらしないのは地元キーウィよね、アジア人が納税したお金で失業保険貰ってアジア人に作ってもらったフラットホワイトで満足してるんだから」

「まあそれはいずれ、次の機会にやろうじゃないか、けどあいつら先住民は慎重にやらないとな〜・・・じゃカフェに行こうか、最近出来た良いカフェがあるんだ、アジア人のバリスタが作るフラットホワイトが美味いんだ!」


こういう感じの会話がオークランドの坂の上のつたに絡まる建物の中でキーウィが作った美味しいフラットホワイトを飲みながら語られたのだろう。それがそのまま法律に反映されて今回の改正につながった。


急な法改正と言う意味では数年前にある日本人アナウンサーが子供の国籍欲しさにNZで出産しようとした。ところが病院で死産となり彼女はその医者=政府を訴えた。訴えられた政府はびっくりした、おいおいそんなずるをしている連中がこの国で出産していたのかよ?


何せこの国では出産費用は無料だった。そして出生地主義なので子供が生まれれば国籍が取れた。つまりこの女性は出産費用は自分とは何の関係もない納税した事もないニュージーランド政府に払わせおいて生まれた子供に二重国籍を与えておいて将来は自分がファミリーカテゴリーでついてこようとでも思っていたのだろう。


そういう法律の穴はニュージーランドにはたくさんある、何故ならNZの法律は「人は嘘をつかない」が原則だからだ。NZで生活された方ならこの国の本人認証の甘さにびっくりするだろうが、人が嘘をつかないことが原則なのだから認証すること自体が「変化に対応している」証拠である。


この女性の裁判では裁判所がすぐに女性の訴えを却下してその翌週には国会で新しい法律が発布された。「NZで生まれた子供でも親のどちらかに永住権または市民権がなければ国籍は与えません」。


日本だと国籍法を変更するわけだから何年も議論を〜なんてなりそうだがNZでは速攻である。当然だろう人の善意を逆手に取って騙すような日本人がおまけに裁判にまで訴えたのだ、ふざけるのもいい加減にしろってなる。


この事件の時はぼくら随分と恥ずかしい思いをした。

「おい、日本人ってこんな事する奴もいるのか?」

「ああ、あれね、日本には日本人と違う人種がいて彼らが恥知らずなことするんだよ、彼らはメディア人ってんだ」

「ああ、あれね、あれならNZだって同じだよ、ははは」

ふー、笑ってくれてるうちは良いが、一つ間違ったらほんとやばいぞって事件だった。


事これほどに移民法はしょっちゅう変わるしその背景も明快である。移民法あれば対策あり、対策あれば政策訂正ありの繰り返しだ。


こういうのは真面目な日本人には理解しづらいと思うが、とにっかくこの国の法律はしょっちゅう変わる。だから今ルールがあるってんで準備を始めて半年後、なんて言ったらルールが変わってたなんてのはしょっちゅう。


なのでぼくが常にお客様に説明しているのは「ビザは取れる時に取りましょう、シール一枚重いものじゃないし、次はないかもしれませにょ」だ。


けれど同時に理解して欲しい。1年で変わる法律は来年また変わる。2年で変わる法律は再来年変わる。その変化がプラスかマイナスかはその人次第だが、とにかく変わる。だから大事なのは常に身軽にいつでも動けるように準備しておくことだ。



tom_eastwind at 17:37│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 | 移住相談

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