2011年06月08日
その日そこにいること
8年ほど前になるだろうか、当社でワークビザで働いてた女性がいた。短大卒でワーホリ3か国制覇(豪州・カナダ・NZ)で日本の職歴もなく、海外に長いこといながら英語力もなく特技はおしゃべり(笑)、ポイント制度からすれば箸にも棒にもかからないケースである。
しかし人間力としては普通の人間十人を束にしても敵わないほどであり、ありゃもう天賦の才としか言いようがない、何せ東京の優秀な大学を卒業した連中を理論でねじふせて「おら、あれせーこれせー」とこき使ってたくらいだし相手が誰でも物おじせずに下手な英語で突撃するのは傍で見ていて気持ち良いくらいだった。あれはもう一種何というか英語力以前のコミュニケーション能力が異常に発達しているから相手が英語で話しかけてきても日本語で返答してお互いに会話が成立するって、独特の世界である。
永住権は世界中から来る人間を一定の枠にはめ込む必要があるわけで、そういう視点(ポイント)からすれば型にも枠にもはまらない人は永住権申請資格がないとなるのだから仕方ない、「こりゃあたしにゃ永住権は無理でんな、あははは」とか笑ってたが、ある日そんな彼女の元に手紙が舞い込んだ。移民局からである。
「ねえねえ、何て書いとります〜?なんかやばいんちゃう〜?」とか笑いながら開いてみたら、その手紙は何と永住権への招待状!
「こちらは移民局ですが、あなたは現在NZで労働ビザを持って働いており、もし今永住権を申請すれば永住権を発給しますよ」だった。
あれ?英語テストは?学歴は?職歴は?身長は?体重は?(後ろの二つは冗談です・・)てなくらいびっくりしたのだが、何度読み返しても”現在の能力と資格”で「永住権あげるよ」って書いている。
むむむ、冗談じゃなさそうだし、いちよ弁護士に聞いてみよって事になって問い合わせてみると、何と今年は永住権申請者の絶対数が不足してしまい目標の約5万人に全然満たない2万5千人程度(ちょい不正確だけどそんなもんだったと思う)で政府から移民局にお叱りがいった「働かんかい、ヴォケー!」。
この国に限らず国家の基本は国民であり数が多い方が世界的に発言権が強くなるのは現在の世界を見ていればよく分かる。ニュージーランドは平和な国ではあるが人口400万人はあまりに小さい、為替は北半球のファンドにしょっちゅう振り回されるし消費経済は豪州の9番目の州となっている。
なのである程度の国際的発言力や経済力をつける為には人口の適正な増加は必要であり、それが移民を受け入れる一つの理由となっている。
ところがその年は移住希望者の募集箱を開いてみるとすーかすか、移民ルールのポイント制度の変更が影響を与えたようで申し込み後半になっても数は増えず。そこで移民局としてはとにかく今申し込みしている人はどんどんOK出すしかない、誰もかれもが入れ食い、箱に申請書放り込んだら永住権もらえますってことになる。
それでも不足しているものだから「その日そこにいる人」にも永住権をばら撒くことになった。これがワークビザ保持者がポイント不足にもかかわらずいきなり永住権を取得出来た理由である。
「ほえ〜、ほんとに永住権、取れましたわな〜」そうやって喜ぶ彼女ではあるが、こういう人って世の中に常に存在する。「良い時に良い場所にいる」ただこれだけなのだが、ほんとにそういう運命の人ってのは、昨日まで生活してた街が今日は爆弾騒ぎだとか去年まで住んでた景気の良い街が今年は大不況で失業者激増とか、そういう「悪い場所に悪い時」からはするりとすり抜けていつも「良い時に良い場所」にいるのである。
これがなぜかなんて考えても仕方ない、そういう人はそういう運命にいるのだ。彼女の永住権取得の前年は弁護士に数千ドル払っても永住権取れずに日本に帰った人もいるし彼女の翌年からはまた永住権が厳しくなって弁護士に金払って苦労して取得出来れば幸運、そうでなければ帰国となった。
日本人が外国で生活する限りビザは一生付きまとうものであり、避けて通る事は出来ない。ところがこのビザと言うやつはとっても水物で、政府が一般公表する時はとっても難しい単語を並べてあーでもないこーでもないというけれど、突き詰めて言えば「はないちもんめ」である。
「あーの娘欲しいや花一もんめ」そうやってNZ政府と移民局は世界中の「あの娘」に向けて声をかけるのだが、その基準は自国を成長させてくれるかどうかだ。しかしそこは現実問題があり、どうしても「あの娘」が来なければ仕方ない「この娘」で手を打っておくか今年は、となる。
来年はもっと良い条件付けてシンガポールやオーストラリアに負けないように優秀な人材募集するぞ、そう考えて移民局は新しいルール作りに邁進する。とは言っても「優秀」と言う基準は非常に難しい、そこであんまりとんでもない人々や勘違いの人々を合法的に排除する為に世界的には高水準な人材と見做される「4年制大学卒」「就労経験8年以上」「英語力あり」「犯罪歴なし」「病歴なし」「30歳ちょい杉」と言う目に見える壁を作るのだ。
こうすることでNZからすれば望まない移住希望者に「あなたはポイントが不足しています。文句あるなら3週間以内にアピールしてね」と手紙を送って合法的に決着をつけることが出来る。
「え?だって四大卒で就職8年で犯罪歴なし、そんなの普通じゃん」と思うかもしれないが世界標準で言えばこれはとっても優秀な人々と見做されるのだ。そうでないと思うなら問題は日本の教育制度にある(笑)。
しかしこの目的はあくまでも足切を合法的に行うことであり、実際には優秀であれば採用、じゃなかった永住権は発給したい。そう考えるとすでにニュージーランドでワークビザで4年も働いているってのは優秀である。
何故なら彼らはこの4年間毎月きちんと納税して消費税も払い、犯罪も犯さず病気にもならずにこの国に貢献してきたのだ。英語出来ないかもしれないが少なくとも4年間生きてきたのだ、たくましさはあるだろう、英語力免除!となる。
日本人はほんとにくそまじめに移住のための点数、ポイントを一生懸命計算して移民局の細かいルールを見つけては自分に適用されないかどうかを一生懸命考えるのだが、けどなかなか一歩踏み出して渡航しようとしない。
そりゃそうだ、ビザが取れるかどうか分からないのに行けるわけないじゃん!そう思うし言いたい人の気持ちはよく分かる。しかし現実はそうやってルールが緩んで誰でもビザが取れる時に「そこにいなかった」だけで翌年の申請になり結果的にビザが取れないとなる。
ポイント制でいけばずっと優秀でも永住権が取れず、ポイントは永住権申請に全然不足してても永住権が取れる、そういう現実の世界があるのも事実である。
要するに「その日そこにいるか」である。優秀でも一歩踏み出せなければ次はないしポイントが不足してても一歩踏み出した人には神様が微笑んでくれる。