2011年12月12日

英国外交の珍しい失敗

ここ数週間、欧州危機についてお客様から「見通しはどうなのか?」と聞かれてます。ぼくは欧州に詳しくないし欧州でぼこぼこやってる当事者同士がまだ結論出してないのにニュージーランドに住む田舎者が何を分かるはずもなしという状態。

 

けれどニュージーランドにとって英国は宗主国であり欧州大陸から移住したドイツ系も多いし、今回の欧州大陸対英国と言う構図はキーウィにとってもかなり感情の入った話になっています。なので地元キーウィ金融界で一般的に話されている事を書いておきます。

 

「今回の欧州危機はドイツが、またはEUがお札を刷る事で問題解決を図る。どのような形でお札を刷るか、それはドイツの判断次第だがそれしか答えがない。英国がEUに追従するかどうかは英国の判断次第だがEUは経済統合に向けて進む。つまり欧州危機はいずれ収束する、来年の3月が目途だ」

 

これがキーウィ金融界の一般的見解である。この話を聞いたのが11月下旬。でもってどうなるかと見ていたら12月12日のブリュッセルでのEU首脳会談で英国のキャメロン首相がEU経済統合を拒否ってしまった。はは、どうやら今回はキャメロンさんの戦略ミスですな。

 

ここから先はあまり表では話されない内容であるからあくまでも伝聞推測憶測情報として聞いてもらいたい。↓

 

日本語版ではあまり触れられていないようだが英国が主張していた「英国の権益」とは要するにすべての金融取引に税金(トービン税と呼ばれている)をかけるのを止めろ、または英国の大事な権益である金融業界が損をしないようにと言う事だ。

 

英国は産業革命やってた頃は製造業が強かったが第二次世界大戦で疲弊して製造業が次々と国際競争に負けて1970年代には遂に欧州の傘に入るまでに落ちぶれた。ニュージーランドが自国通貨をポンド制度からドル制度に転換したのもその時期だ。

 

それが1985年の金融ビッグバン以降はすっかり金融産業にシフトして大成功、ロンドンのシティはニューヨークのウォール街と肩を並べてわが世の春を謳歌したわけである。リーマンショックで発生した金融恐慌でも結局金融業界で働く者の利益だけは守られて各国が蒙った痛手は各国民の税金で賄われた。

 

これに対してドイツは製造業が中心であり金融産業のやってるマネーゲームを苦々しく思っていた。しかし金融産業がどのようにお金を動かしてどのような戦略でEU加盟国であるギリシアなどを潰そうとしているかが掴みようがなかった。

 

そこですべての金融取引から税金を取る事でおカネの流れを掴むと同時にEUが自前の徴税権を持ちEUの独立性を強める事を考えた。お金の流れが掴めれば金融爆弾がいつどこに向けて発射されたかが分かるので金融危機の際の犯人がすぐに見つかるしEUは各国からの拠出金で賄われているから独立性が弱いが独自の予算を持つ事が出来れば各国に対してより強い発言権を得る事が出来る。

 

これに対してキャメロン首相は「英国の国益を守るための保護条項を導入しろ、そしたらEU条約改革にも賛成してやる」とやったのだが、北欧などが英国の意見に賛成すると思ってたらあっさり振られて英国一人ぼっちで反対と言う事になりEU加盟国からは「ばーか、いつまで大英帝国とかのぼせてんだよ〜終わってんだよ、お・ま・え〜」と笑われ自国に戻ると国会で「ばーか、なんで恥晒してんだよ〜」と批判の大合唱。

 

今回はキャメロン首相の作戦は英国にしては珍しく外交の失敗である。このような駆け引きは勿論キャメロンがすべて自分で仕切るわけではなく多くの場合は英国外務省から上がってきた報告を基に戦略を作る。キャメロンは元々がよいとこのぼっちゃんでありニュージーランドのジョン・キー首相のような叩き上げではない。だからおそらくは外務省から「ボス、どうやらドイツは妥協しますぜ」とか「北欧や東欧はこっちに付きそうですぜ」と言う話を聞き「おおそうか、良きに図らえ」みたいな状態で自分で情報を確認する事はなかったのかな。

 

今までの英国ならEU加盟国を内部から切り崩してそれぞれに喧嘩させて自国の味方を引き込む間接誘導外交で成功していたのだが、失敗の原因がドイツのメルケル首相の動きを読み間違った事と北欧の動きをしっかり押さえる事が出来なかった事であり、要するに情報収集ミスである。世界で最も強い諜報組織を持っていたんですがねーって感じだ。

 

今頃英国外務省はキャメロン首相から大目玉を食らって、下っ端の連中はクリスマスそっちのけで情報収集に走り回る事だろう。

 

しかし怖いのはこれからだ。英国はこの失敗で本気出してくるだろう。キャメロン首相はこれだけ人々の前で恥をかかされれば絶対に攻撃に移る。今度は自分で情報確認もするだろう。次の大波は来年3月だがそこまでユーロが続けばドイツの勝ちだしユーロ切り崩しに成功すれば英国の勝ちになる。

 

このような欧州の状況であるが、ニュージーランドの通貨供給量は恐竜で言えば大きな図体のしっぽの一番端っこみたいなものである。恐竜がくしゃみをすればしっぽが跳ね上がる。吹けば飛ぶようなニュージーランド通貨はまさに恐竜のしっぽなのだ。

 

だからニュージーランドのような小さな国家は常に北半球の大国がどのような動きをするか注視している。英国が勝とうが大陸が勝とうが自国への影響を最小限にする為に。同時にニュージーランド通貨を理解する時に豪州と提携している経済緊密化協定(CER)を理解しておくことは必要だ。この協定によって実質的にNZと豪州の経済は一体化している。豪州は資源国であると言っても通貨の供給量で言えば北半球とは比べ物にならない。

 

これからも欧州の動きは目を離せない。第一ラウンドでは英国の負けってのが世間の評価であるが第二ラウンドがどこでどう発生するのか。おそらく男どもは誰もが子供の前では見せられないけど、どきどきのクリスマスを迎えることになるのだろう。

 

当社の取引先も今週で終わり、クリスマス休暇に3週間〜4週間入りますって状態。当社も21日から3週間のお休みです。誰もが束の間の休戦だけど、年明けからの攻防戦、すごい事になりそうです。



tom_eastwind at 18:38│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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