2012年09月12日

公案

 

仏教の禅宗に「公案」というのがある。有名なところでは「隻手音声」と言って、これは「両手を打ち合わせれば音がするがでは片手ではどんな音がするか?」と問うものである。常識で考えれば片手で音などするわけがないが禅の修行として修行者を常識から解き放つ目的がある。By島田裕巳

 

この考え方は移住を検討する際にも利用される。というのが移住は出発までの様々な条件があり現地では日本の常識が通用せず、一体どこからどうやって取り組めばよいか皆目検討がつかないからだ。

 

ぼくらの仕事の一番のキーポイントとなるのもそこで、お客様の置かれた状況を様々な角度(日本側から、NZ側から、また両国の法的問題点、NZ移民局の視点、、移住後の経済生活をどう成立させるか、小学校、将来の大学進学、日常生活の問題点、本人たちの希望する生活の質などなど)から検討してはプランを作るのだが、だいたいの場合は途中まで作ったプランが上記問題点から見てダメなのでまた元に戻してゼロから組み立て直す、まるでルービックキューブの繰り返しのような作業を行う。

 

このような作業を行う中で会員向けに一人ひとりの状況に合致した移住工程表を時間軸と作業軸を使って提案していくのだが、この時はいくつもの選択肢を用意しておく。この点は妥協できますか?これは希望に対して満額回答した場合は高くつきますよ、方向性を全く反対側から見て計画を作る方法もありますよ等など。

 

この作業時に一番問題となるのが「常識を捨てる」という事だ。常識とか憶測とか思い込みは人間の選択肢の可能性を非常に狭めることになる。こんな事聞いていいのか?とかどうせダメだろうなんて「常識」とか絶対失敗しないように「安全策を」なんて条件をまともに追求していけば移住など到底不可能である。

 

社内の移住チームでは毎朝の打ち合わせで昨日に届いた問い合わせを皆で検討してまずは担当者を決める。そして担当者と大体の方向性を決めてから担当者がメールを送り返すのだが、送られて来た短い問い合わせメールから何を読み取るか?また無料診断で送られてきたデータから何を読み取りどこを膨らませてどこを削っていくかも大事な作業だ。

 

この時は無料診断書に書かれた内容について皆がそれぞれに印象や意見を述べて集約していくのだが、大体において一番突拍子もない事を言うのは僕である。それは何も社長だから言いたい事を言うってのではなく、ぼくが誰よりも突拍子もないことを思いつくからだ。

例えばある時など、お客様がペットを送ることになったのだが、ペットの場合は航空貨物として送るようになるが輸送のための飛行機代が高い。担当者が「この輸送費用、どうにかならないですかね〜」とつぶやくと、ぼくは「だったらバラバラにして送ればどうだろう?最初は足一本だけとかさ」。

 

周囲は一気に無言でドン引き、背中に冷たい汗が流れるような雰囲気になる。あらま、またやっちゃったって感じだが、その時の議論のポイントが輸送費用であれば輸送費用を低減するための選択肢は出来るだけ多いほうが良い、ならば「バラ積み」という発想もあるのだ。

 

もちろんその上位にある「生き物をばらして送ったら死ぬよ」って命題はあるのだが、そんな上位の命題が先に出てくるようでは何も新しい事は思いつかない。

 

一つ一つの問題を、まずその部分的解決方法を見つけてそれを組み立てて総合的に問題がないかを検証して全体解決手段を見出すのだがこのペットの場合は部分解決が出来ても総合的に「生きてるペットと暮らしたい」という解決策にはならないので結果的に却下となる。

 

ただし自分の頭をできる限り柔軟にするって意味では公案のような考え方を持つ必要があるのが事実だ。

 

世間で言われる頭の良い人ってのは部分的解決をすべき時点で全体解決の要件を適用しようとするから最初の時点で答が限定されており全体を常識に従ってうまくまとめようとするからいつまで経っても答えが出ないという事になる。

 

その点ぼくのようなバカは頭の良い人のような常識がないから目前の問題を解決することに集中出来る。その結果として普通の頭の良い人が思いもしないような結論を導き出すことになる。

 

とかく頭の良い人は常識で判断するからかえって常識の壁に阻まれてしまう。人生という移ろい易いものでさえ学校の試験対策のような方法を取るからうまくいかない。移住の工程表作りもまさにそうで、頭の良い人に限って全体と細部のバランスがうまく取れずに前進出来ない。

 

公案もまさに常識を離れたところで徹底的に考え抜く作業であるが、ぼくは今までなぜこんなに普通の人では思いもつかない発想をするのかなと自分でも疑問に思ってたが、先日のように自分の祖先が禅宗臨済宗のお坊さんであった事を考えればこりゃDNAなのかなと思った。

 

とにかく移住のプラン作りはいかに自由な発想を持つか、いかにたくさんの視点から見る事が出来るか、いかに今の自分の状況を把握するかが大事である。その意味で移住を戦争として捉えて「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と考えればプランは作りやすくなる。

 

移住の相談を受ける時にぼくが公案のようなアイデアを出すのだが、これに対して一番理解力が高いのがIT系技術者であり理解力が低くなるのは公務員、邦銀系である。

 

公案はいきなり最初から出来るものではなく常日頃からの訓練が欠かせない。片手では音がするわけがないと最初から否定するのではなく、何故相手がそのような質問をするのか、その質問の趣旨を読み取り考えてみれば答は必ず出てくる。

 

公案事例:

1・白馬とはどのようなものか?美味しいウイスキーである。

2・愛読者とは何か?読者を愛する作家である。

3・愛国者とは何か?国家に操られて喜んでる思考停止型のバカである。



tom_eastwind at 13:38│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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