2012年09月15日
琉球料理山本彩香
以前から一度行きたいと思ってた沖縄料理の店がある。その名は「山本彩香」。やまもとあやかと読む、沖縄にしては随分と本土っぽい名前だがれっきとした琉球女性で琉球舞踊家でもある。
沖縄料理店は数あれど、本当に古くからの料理法で一切調味料を使わずそして美味しいとなればこの店がまっさきに上がってくる。
すでにご高齢でお店は現在他の方が中心に経営されているが今でも普通にお店に出てお客様に挨拶をしながら料理の説明をしてくれる。
今回は取引先の方お二人と訪問したのだが彼らもこの店は初めてで、「てか、何で沖縄に住んでる俺たちがニュージーランドから来る人に店を決めてもらってるんかね」と笑ってた。
てかこの二人も2011年の震災前後で横浜から移住してきたビジネスマンであり彼らも沖縄生活の日は浅い。横浜ではいつも一緒に飲み歩いてたメンバーなので横浜なら彼らの方が店を知っているが来たばかりの沖縄ではそういう訳にもいかない。
夕方お店に向かう途中、旭橋を渡って裏道に入ると何だか見覚えのある景色・・・思い出した!ここ「ジャッキーステーキハウス」じゃんか!細い通り沿いの向かい側には20数年前に良く行ってたちっちゃな飲み屋が立ち並び、おー、あの頃の猥雑さがなくなってるけど古臭さはあいも変わらずだな〜と、ちょっと懐古気分。
当時はパスポート無しで入国出来たと言ってもまだまだ米軍があちこち出まわっており辻や波の上と言えば当時一番の遊び場所だった。沖縄の夜は遅くから始まる。最初に食事してから飲み始めるなんてのもありで、ジャッキーでステーキ食ってから近くの飲み屋で当時高級だったジョニ黒で夜更け過ぎまで飲んでたものだ。
車をもう少し走らせると久米の街に入りすぐの角っこにある「山本彩香」はつい最近店の名前を「琉音(りゅうね)」と変えて営業しているがこのあたりも古くからの街である。お店はまさに街のお蕎麦屋さんのような佇まいでぱっと見ではこれが有名店か?と思う方も多いと思う。
だがぼくのように1980年代初頭から沖縄に行ってる身からすれば昔からの沖縄は皆ざっけなく、ソーキそばを食べるにしてもまるで民家の軒先の縁側から座敷に上がって料理を出していただくような感じだった。
東京のようにいつも流行を取り入れたり派手なサービスをしたりしない。料理屋と言いながら敷居が低くまるで過程の食卓に招いてもらう感覚であり、本土から来たお客は少し肩透かしを食らうかもしれない。実際ある本では沖縄には元々料理人という職種がなくそれぞれの家庭で女性が作るもので彼女らが沖縄料理の伝統を引き継いで来たといわれている。
だから東京のような発想でレストランを考えてもその概念が全く異なるから本土のようなサービスを期待するほうが間違いであり、まさに「他人の文化を理解しようよ」って事だ。
店内も外見と同じくざっけないテーブルで焼き物が床に並んでたりマーロン・ブランドの写真が壁に飾ってあったりで、これまた本土から来た人には疑問符が出てくる内装だろう。
テーブルは予め予約をしておいたのでゆったりと座れて(てか予約ないと飛び込みでは多分座れない)いかにも店員さんという女性の方が店の前まで出てきて「あ、車ならあそこの先の駐車場に駐めてくださいね、無料駐車券がありますからね」と教えてくれる。
料理は最初に豆腐ようで始まるが、こりゃ確かに凄い。こんな豆腐よう食った事ないし。何だこの味?初めて食べる食感で今までの豆腐ようと全く違うのにこれが一番美味しく感じてこれが本当に昔から伝わる味なんだなって感じさせる。
本当の味を知らないのに本当の味というのも理論的におかしいとは思うのだが、何だか本物を食べた時に直感的に感じる、例えば絵画や芸術は本物にはシロウトでも分かる迫力があり、創造性、本物だけが持つ力を感じるのと同じだ。
豆腐ようは沖縄料理で有名だが、はっきり言って東京の沖縄料理は東京風にアレンジした雑食である。珍しさをネタにしているが食材も雑だし料理法も雑で、そりゃ歯の裏をやにで真っ黒にして煙草臭い店で子供の頃から化学調味料べったりで生きてきた人からすれば「これが、何?」と思うかもしれない。
けれど沖縄料理は元々中国の薬膳料理から発達しており食べる事で体と命を守るという考えだから、歯の裏くろんぼさんたちからすれば、単なる薄味で訳の分からんパンチのない食い物という事になる。
実際に東京あたりで出される沖縄料理だと醤油でどっぷり漬けたラフティとかじゃないと満足しないだろうし何にでも島らっきょうと唐辛子を打ち込まないと味を感じないのだろう。
沖縄料理も今でこそ東京でもブームと言われているがぼくが通ってた頃は東京の人が来ても「美味しくもない琉球料理よりもステーキハウス」だったしお昼に食べるソーキそばにしても「何だこのぼそぼそとした薄味は〜?」と言って「だから沖縄はダメなんだよ〜」と文句ばかり言ってた。
話はそれるが同じく1980年代に東京から仕事で来た人と酒を飲んでから博多名物のラーメン屋に行きましょうって元祖長浜らーめんに連れてったら、その人それまで賑やかにしゃべってたのに入り口近くで急に足を止めて「く、臭い、これ、何ですか?」と言い出して結局店には入らずしまいだった。今の東京のラーメンブームを考えるたびにその人の顔を思い出す。
沖縄料理の食材として豚肉がある。ラフティ、足ティビチ、ミミガーなどが有名であるが、沖縄の豚肉料理は中国から発達したのだろう、とにかく料理法がたくさんありゼラチンや良質のタンパク源が体全体に広がっていく感じがする。
生まれて初めてミミガーを食べたのは30年前。今もはっきり覚えているが那覇の裏町の住宅街にある古くからの民家の庭から縁側に入り、風通しの良い畳の大部屋に座ったらしわくちゃのおばあちゃんがにこにこしながら出てきて何か話しかけてくる。けど全く何を話しているか分からない。
そのうちメニューを持ってきて「ソーキそば」とあったので多分これが麺だろうと思って注文して、ついでに「ミミガー」と書いているのがあって「これは何ですか?」と聞いて見たがやはり会話不能、仕方ないのでとりあえず頼んで見たら出てきたのが豚の耳の薄切り。これがぼくとミミガーの最初の出会いだった。
琉球料理は一つ一つが体に優しく日頃殆ど食事をしない僕が豆腐ようを2つも食ったのを見て相方がびっくりしていた。他にも実にたくさんの、決して豪華ではないが心のこもった素晴らしい料理でほんとにその晩は体の調子も良く泡盛と合わせて楽しめた。
夜はコース料理のみでお一人様7千円+飲み物。クレジットカードは使えないのでご注意。はっきり言って好き嫌いの別れる料理だ。タバコを吸って化学調味料大好きの人には合わないだろう。煙草の煙と調味料が好きな人ならば沖縄の郷土居酒屋に行くと良いだろう、まさに望みのものが食える。