2012年09月27日

水滸伝と日本人

奥さんは最近中国の古典にはまっているようで水滸伝を読んでいたかと思うと今日は三国志演義を読んでる。

 

りょうまくんの朝ごはん作りは僕の仕事でお弁当は奥さんが作ってる。りょうまくんのお弁当(ふりかけを混ぜた俵おにぎりだったりベーグルサンドだったり)を作った奥さんは子供を送り出してから自分用にトーストを焼いてアボカドとハムなんかを一緒にして、キッチンテーブルに乗せてハイチェアに座って水滸伝を読書ラックに掛けて朝食と読書を楽しんでる。

 

日本人は識字率ほぼ100%だし読書daisukiだからあまり実感が湧かないだろうが、海外では読書とは生活に余裕のある一部知識層の趣味という面が強い。とくに中国では現在でも15歳以上で字を読めない人が5千万人以上いる。人口差があるので日本の感覚で言えば5百万人としても、福岡県民全員が文字を読めないと言えばその状況が何となくイメージ出来るのでは。

 

10年前に75歳で亡くなるまで同居していた奥さんのお母さんは自分の名前は何とか書けたが普通の本を読むことは出来ず新聞も読めず、誰かに手紙を出す時は集合住宅に必ずある代書屋に行って手紙を出してたものだ。

 

それはおばあちゃんの時代ではごく普通であり文字を書ける人々はおばあちゃんが15歳の頃には20%しかいなかった。日本が繁栄を極めていた1980年代でも中国で文字を読める人は75%、つまり10億人のうち2億5千万人が字を書けなかったのだ。今も15歳以上の中国人のうち5千万人が文字を書けない状況である。

 

文化大革命が起こった1970年代、人々は毛沢東思想に染まり知識層を狙い撃ちにして追放した結果それまでの中国を支えていた知識人や歴史や過去を知る多くの道徳ある人々は滅びて、多くの中国人は中国人でありながら自分たちの過去を忘れて前を見る(看前)のではなく金を見る(看銭)ようになり、どんな資本主義国よりも強烈なルール無しの看銭社会となった。

 

同じ頃香港では幸運というか英国植民地だった為に英語は公用語で使われ日常生活は広東語を使う二重言語と学校義務教育のおかげで子供たちは中国の文化を守りながら西洋社会で仕事をする要領を覚えた。

 

つまり黄大仙(ウォンタイシン)寺院で自分の占いをしてもらい風水でビルの建て方や方向を決めセントラルで西洋式金融を行いコーズウェイベイで西洋式貿易を行い、夜は家族で食卓を囲み中華料理を食べて自宅の祭壇に食べ物を供える、そんな二重生活を構築した。

 

文化大革命、つまり1965年ころから1975年頃までに学生だった中国の若者は紅衛兵と呼ばれて中国文化と知識人を滅ぼす仕事を国家による崇高な命令と考えて実行してきた。その彼らは現在50歳前後である。

 

そして彼らの子供たち、一人っ子政策で甘えんぼで脳みそ不足の子供は中国の文化を知らず義理も人情も道徳も知らない人間として育ってきた。

 

ところが同じ時代、日本では古くからの識字率の高さもあり中国の道徳や文化から多くのものを学んできた。四書五経、孫氏の兵法、むしろ日本の方が古代中国の正しい歴史を学んできたと言える。

 

皮肉な話ではあるが古代中国の歴史が日本人に道徳を与えそれを基礎として日本文化を混合させて武士道が出来上がり明治維新を断行して西洋と肩を並べるようになり、明治以降に中国の近代化を図る中国人(魯迅、孫文など)が日本に留学に来て古代中国文化を基礎とした日本文化を知るという事になった。

 

そして今、中国と日本が尖閣諸島を挟んで新しい時代を作ろうとしている。

 

もちろん両国にそれぞれお家事情はある。しかし常に念頭に置くべきは、日本と中国は2千年の一衣帯水の歴史を持った隣国であり、お互いに何度も攻めたり攻められたりしている関係でありながら、その文化の源泉は多くを古代中国文化に発するという点である。

 

ぼくが水滸伝を最初に読んだのは小学生の頃だ。胸がときめきまだ見ぬ中国の英雄、その武術に精神に道徳に憧れたものだ。三国志を読んだ時は戦国の戦いの規模の大きさと戦いのあり方と人はどう生きるべきか、まるで自分が地面に向かってぐっと引っ張られる気持ちになったものだ。

 

今このニュージーランドで奥さんは繁体字中国語の水滸伝や三国志を読んでいる。ぼくは日本語で読んだ。子供たち、お姉ちゃんはおそらく両方の文字で読むだろう。りょうまくんは、あは、英語版しかないかな。

 

尖閣諸島。その規模や期間、日中2千年の歴史の流れでは、まさに長江に投げ込んだ小石のようなものである。冷静に、たくさんの視点から、世界の歴史の流れの中で同じような事がなかったかをしっかり勉強してお互いの為に何が一番なのかを考えるべき良い機会だと思う。



tom_eastwind at 15:29│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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