2012年09月30日
海外で財産を守る 家族信託という制度について
2012年度税制改正で個人の海外資産(5000万円超)の報告が法律により義務づけられるというニュースが報道されてから海外で法人を設立する人が急増してきた。
ニュージーランドでも同様に、最近は家族信託設立の問い合わせが増えている。なのでここで簡単に説明しておく。
日本には存在しない制度なので理解しづらい人が多いのだが家族信託とは元々が英国から来た制度であり英国圏諸国ではごく一般的である。
国によりその形式は少しづつ違っているがニュージーランドではこの制度の目的は親が子供の世代に資産を残す事と同時に家族の誰かが何かの事件で裁判で訴えられて敗訴してもその人が家族信託に入れている資産については法的強制力が届かないという点が挙げられる。
家族信託は位置づけで言えば株式会社のような法人と思ってもらったら良い。法人とは法的に認められた人格でありニュージーランドの法律によって人間と同様に守られている。
家族信託は一つの大きなツボであり家族は自分たちがそれぞれで作った資産を一つのツボに入れる事で家族全員の資産を守ることになる。ツボの中身に手を付けられるのは家族のみである。
じゃあこの制度を外国人である日本人がどう利用出来るのか?ここではひとつの例として事業継承を考えてみる。日本の中小企業はオーナーが自分でゼロから立ち上げたケースが多い。この場合株式は家族で持ち合ったり父親と母親が全部持ってたりする。
父親が存命中は問題ないが亡くなった場合は株式が相続財産として時価評価されるが、取得原価がほぼゼロの株が時価にすると数億円になる場合、子供は相続税を払う現金がないから銀行から借りるか会社をたたむという事になる。
しかし父親が存命中に父親が株を第三者に売却すれば会社は相続財産ではなくなる、だって他人の物ですからってことだ。けれど第三者って誰が?そんな人間に会社を支配されたくない、当然そう思う。
けど売却先が海外にある家族信託会社であれば?株は毎年評価額が変わるから、父親は税理士と相談しながら株価が一番低くなった時点で手持ちの株をすべて海外にある家族信託会社に売却するのだ。
もちろんこの時でも売却益は発生するが税率は10〜20%程度だ。相続税の場合は最高税率50%(もうすぐ55%になる)と比べるとずっと少ない。こうやって海外に持ち株会社を作り、その会社に自社を支配してもらえば実質的に家族経営が継続出来る。
この方法は最近ではユニクロの柳井会長がオランダで海外持ち株会社を設立したってニュースがあったがこれも同様で相続税対策である。
ニュージーランドの家族信託の場合、設立は税法弁護士と税理士がワンセットで作ってくれる。彼らが希望者の要望を聞き入れる資産内容を確認しながら最も良い方法を提案してくれる。設立にかかる期間は内容によるが大体半年程度だ。
設立後は弁護士が会社の代表としてニュージーランド側の法的な手続きを行い毎年の決算や消費税払込などの作業は税理士が行う。設立にかかる費用は約5千ドル、毎年の維持費が約3千ドル程度。
手続きに時間がかかるのは財産が法的に誰のものかをきちんと整理してひとりひとりから署名をもらいそれを法的に有効にするための手続きをするからで、ペーパーワークが非常に多く煩雑なためだ。
それでも今のうちにやっておかないと、いざとなった時にとんでもない税金を支払うことになり、結果的に会社を廃業するしかないとか銀行に借金をするって事になる。
海外という不確実なリスクを恐れて何もしないともっと多くの確実な目に見えるリスクを生むことになる。縁起でもない、おれの目の黒いうちはなんて言っても結果的に家族に迷惑をかけてしまうのであればそれは単なる老人がいずれ来る死を恐れるわがままにしか過ぎなくなる。
日本はこれからの10年で大変革が起こる。それは日本が敗戦後に預金封鎖を強行して財産を失った人ほど国家の変化の激しさを知っている。それは城山三郎の「小説日本銀行」でも語られている。日本のこれからを考える時に歴史を振り返ってみるのは大事だ、それも他人ごとではなく「自分はどうすべきか」と考える上で。
小説日本銀行 (角川文庫 し 4-1)
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