2015年10月04日

人間としての仲代達矢

仲代達矢主演の映画で小林桂樹監督の「人間の条件」は4年かけた9時間30分の大作である。日本では最近こんな映画、ないなー。

 

映画だけは経済合理性で計算することが出来ないのは分かりきっている事だが現代映画界ではそんな理屈は通用しない、特にヒラメのサラリーマンばかりが出世するような映画産業においてはもう「人間の条件」のような映画が出てくる事はないだろう。

 

日経ビジネスで仲代達矢のインタビューをやってた。これ、ゆっくり読みたかったので日曜の午後まで取っておいた。

 

1932年東京生まれ。俳優座附属養成所で演技を学びハムレットなどの演劇から映画界にも入り小林桂樹監督、黒澤明監督の作品に出演。現在83歳である。2年後まで予定が入ってるので85歳までは仕事を続けることになる。

 

「役者に定年はない。何故なら年齢なりの仕事が常にあるわけで大体において引退の手前で死んでしまう」。宇津井健、佐藤慶、中谷一郎とか。仲代達矢が古い映画を見ると泣く、何故なら画面に出てくるあいつもこいつも死んだんだなーって思うと涙がこみ上げてくるのだそうだ。

 

子供の頃に戦争を体験して戦後演劇映画の世界に入り左翼や社会主義者やメジャー映画制作会社、黒澤明監督、様々な時代を生き抜き現在映画界で不動の地位を築きながら常に「映画ってなんだ?人間ってなんだ?」と考え続けてきた。

 

傍白にプロとしての凄みはインタビューの時の声でも分かる。話す声が腹から出ているとの事。「今の役者は殆どが地声です。これでは持たないし客席の後ろまで届かない」これもプロだからこそ言えることだ。しょせんカラオケとテレビで育った世代にそれ以上のものを期待しても仕方ないのかもしれない。若いころは時間もあるのだから腹式呼吸の訓練すればよいのにと思う。

 

「成功した事はすぐ忘れる。過去は切り捨てていく。今日の一日をどれだけ頑張れるかが大事です。失敗作こそ次の勉強になる」

 

まさにその通りである。Auckland20年ビジネスして来たが多くの人びとが花火のように現れては消えていった。成功体験にしがみつきそこから抜け出せない人は変化する社会から確実に排除される。

 

忘れるべきことは成功体験であり常に思い出すべき事は失敗体験である。人は心の痛みをともなう失敗からしか学べないのだから。

 

2012年、彼は地元東京世田谷の名誉区民に選ばれた。同時に選ばれたのが医師の日野原重明さん。103歳である。挨拶で「私も80歳なのでそろそろ引退を」と言うと「若造が何を言ってるんだ」と日野原さんに怒られたそうだ(笑)。確かに、人生に引退はない。



tom_eastwind at 16:22│Comments(0)TrackBack(0) 諸行無常のビジネス日誌 

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