2017年12月14日
死にゆく旅行代理店
今日読んだ記事で「死にゆく旅行代理店」と言うのがあった。
http://blogos.com/outline/264939/
海外旅行に行く日本人数が減っているからもっと増やそうねってのを国策でやっていると言うが、旅行業は元々運輸省の管轄下であり国策としてインバウンドが増えているけどアウトバウンドが増えないよね、じゃあどうしようか、JTBあたりで頑張ってもらおうかと言う元ネタ。
この記事を書いた木曽さんは日本でカジノをやろうぜ!と盛り上がっている人物であり、その意味では旅行業に近い。カジノはすでに単なる博打場ではなく大型エンターテイメント市場になり、MICE(会議、招待旅行、学会、展示会)の開催会場として利用されている。
つまり木曽さんはインバウンド旅行業の立場から記事を書いている。
彼の視点からすれば日本のアウトバウンド旅行はもう「お前は既に死んでいる」なんだろうな。
ただ自分がこの業界でアウトバウンドとインバウンドの両方をやって40年間飯を食ってきて現場を観ていると、彼の意見の半分は納得出来て半分は納得出来ない。
1970年代から旅行業で働いていたので業界の変化は毎日のように観てきた。1970年代当時は九州の旅行ツアーが北海道に行くのにホテル予約を往復はがきで手配していたものだ。
日程表も手書きだしコピー機は青コピーである。もう今観ることはないだろうが、厳重に包装された青色のコピー専用紙を陽の光でダメになる前にささっとコピー機に入れて青写真を撮る。
1980年代に白い紙にコピー出来る機械がやって来て、それは今までと違うと言う意味でコピー機ではなくゼロックスと呼んでいた。
そしてFAXの登場。これはまさに時代の革命的変化であった。それまで遠隔地とのやり取りは国内なら往復はがき、海外ならテレックスだったのが、FAXで片付くようになったのだ。
そして1980年代にはHISが誕生、個人旅行が激増した。けどJALのZEROは失敗した。当時のJTBはHISを「旅行会社じゃない!」と言ってた。
旅行業の一番の肝は、旅行客と旅行会社の情報格差である。この格差を使って既存の旅行会社は生存していた。ところがインターネットの発達で情報格差がなくなった。
更にホテルや飛行機の予約がインターネットで申し込み出来るようになった。こうなれば誰が旅行会社を使って手数料払うか?
この意味において著者の意見には同意である。
日本の旅行業が狂ったのは総客数勝負に入った1980年代後半である。大型飛行機をチャーターして香港やハワイに飛ばす。激安価格なので赤字発進だから現地でのオプショナルツアーを高く設定したりお土産屋からの手数料で何とか黒字化させる。しかしお客様に寄り添ってない。顧客無視である。
そんなツアーに誰が行くものか。最初は安いと思って参加したけど香港のお土産屋に入ったら外から鍵かけられ山の上に登ると写真屋が無理やり写真撮って売りつける。ちなみに彼等はすべて香港マフィアである。何で言い切るか?だって現場で観ていたからだ。
当時ある日系旅行会社で日本から赴任して来た部長が自分の正義感でお土産とか写真とかの仕組みを変えようとしたらある夜に彼は腕を切られてオフィスはナタでぶち壊された。気づかないだけで、どこでも暴力とはそれほど身近にあるのだ。
そして多くのお客様はボッタクリ団体旅行に嫌気をさして個人旅行に移った。
但し旅行にはすり合わせと言う要素がある。パックツアー一つとっても旅行とは顎足枕、つまり食事と移動と宿泊を的確に組み合わせる必要がある。更にその費用を安くするために団体ツアーにする必要がある。
単体で飛行機やホテルを予約するのなら旅行会社は不要である。
しかし、個人で手配するより安く効率的に回るとなれば、現時点ではやはり旅行会社の団体ツアーの方が有利であるのは事実だ。つまりこれからの旅行会社が生き残るのは如何に良い団体ツアーを作るかである。
個人ツアーでは、僕が1980年代に旅行屋だった頃、お客様のご自宅に夜の7時過ぎにお伺いして「去年と今年はあそことここに旅行しましたよね、奥様は長期滞在型がお好きですから次はこちらはどうですか?」などと話をしていたものだ。
つまり旅行業とは本来お客様の懐に入ってお客様の家族事情も理解した中で、どうやって楽しい非日常の旅を組み立てるか、またはその集客力を生かして個人で手配するより安くて高品質なツアーを組み立てるかである。そのどちらも選ばずに旧態然とした個人手配や激安団体ツアーをやっていれば、そりゃ未来はない。
現時点の旅行業は確かに頭打ちである。伸びてるインバウンドは外国の会社に取られ情報格差がない為に日本の旅行会社が利益の取れるビジネスになってない。
ただそれでもひとりひとりのお客様を大事にして彼等の歴史を理解して今何が彼等にとって最も大事なものかを理解すれば、旅行業は伸びる。
これは日本で働く歯医者さんも同様だ。歯医者さんの世界も優勝劣敗である。
ある歯医者さんは無保険で実費を払う患者さんを相手にきちんとした個室で対応してじっくり時間をかけて話を聴きどのような歯にしたいのかを理解して最新の技術でしっかりと施術する。こうやってお客様は満足して友達を紹介してくれる。
「あそこさ、保険効かないけど綺麗にやってくれるよ」
そうなれば美を意識する人は旅行や食事の回数を減らしてでも歯の美と健康を意識するだろう。
これと同様で、旅行屋も本来の役目を理解して思い出してやり方を変えれば生まれ変わる。実際に顧客視点に立った近畿日本ツーリストのクラブツーリズムは成功している。JTBも出発地視点から到着地点、つまり自分の住む地域の旅の要素を全国に向けて発信するという方向性を模索している。但しそれは低賃金と長時間労働で成立しているという皮肉もあるが。
旅行産業の中の旅行業で働く人の数は減っているし既存のままでは生きていけない、けれど旅行屋の本来の役目を思い出せばインバウンドもアウトバウンドも、これからも続く仕事である。
本来の役目とは、個人においては寄り添う気持ちでありグループであれば企画力と価格である。そして現場を支える添乗員とは寄り添う人である。