2018年09月12日
ワイン
今ニュージーランドではワイナリーの売買が盛んである。フランスや米国や中国からM&Aをかけてくるのだが、その理由の一つに地球の温暖化がある。
ワイン作りには一定の気候が必要だが、これが地球全体の温暖化で生産地が次第に南極側と北極側に移動しているのだ。つまりNZがワイン作りに今よりも最適な気候になっていくのだ。
ワインに使うぶどう畑は一度収穫すると大体30年は保つ。だから今のうちにフランスや米国に比べればゼロが一つ少ない価格で買えるワイナリーを買収して自社ブランドで売ろうというのが彼らの考えである。
ワイン作りには畑と醸造所が別々に存在する。両方共自社で保有する大手もあれば畑のみ所有して良いぶどうを作り醸造は地元の醸造専門会社に依頼することもある。
飲む方からすれば美味しければ良いわけで舞台裏を知る必要はないが、北半球のワインのプロからすればワイナリーの買収と言っても何をどこまで買うのかが大事だ。
そこで出てくるのがワインブローカーである。彼らは個人的な付き合いで狭いワイン業界で名を売りM&Aビジネスを成功させると狭い業界内でワインを飲みつつ「おい、あいつがあそこを売ったんだってよ」とかになる。
とにかくこの業界は狭い。皆が個人的に繋がっている。だから売るにしても買うにしても「よし、あいつに頼もう」となる。
このワインブローカーが何をどこまで買うのか法的問題も含めて外国人である買い手側によく分かるように説明する。ここがずれると将来必ず大問題になる。つまり相手に分かる論理と倫理で説明して相手が納得して初めてビジネスは成立する。
だがここがなかなか上手くいかない。特にビジネスモデルが違うアジアからの客に説明するのは難しい。
もちろんブローカーは売り手側にも気を使う。今年の収穫まではうちでやりたいとか畑は売るけど畑で働くスタッフは継続雇用を願うとか、細かい事を言えば畑は全部売るけど一区画は貸して欲しい、自分の好きなワインを作りたいからとか。
ワイナリーのM&Aでは単純に土地の所有者と売買契約をしても権利は移動しない。外国企業はNZの政府機関OIO(Oversea Investment Office)つまり投資委員会の認可を得る必要があり、これが事細かい。この時点で多くの中国企業は敗退する。
更に取水権がある。ワインを作るには大量の水が必要であるが、その権利が契約に含まれていなければ「おじゃん」である。
ところが中国から来たバイヤーは札束で相手を引っ叩くだけでNZ現地の事情を一切知ろうとしないから失敗する。
そこで出てくるのがバイヤーズエージェントである。つまり買い手側交渉人だ。
売り手であるブローカーは売り主のために1ドルでも高く売ろうとする。
買い手はビジネスなので1ドルでも安く買おうとするが現地事情が分からないから相手の価格が適切なのか、こちらが必要とする設備は含まれているかどうか、買い手側の「通訳」が必要となるのだ。
ワイナリーは何を買うかで同じ場所でも数億円単位で異なることがある。趣味でやっているオーナーが引退するからってなら2億円くらいだが上を観ればきりがない。そして買えば必ず利益が出るわけでもない。
それでもNZでワイナリー経営がこれだけ盛んなのは、やはりワインが持つ独特の香りだからなのだろう。